ちづる。
心に馴染むいとけない声が微かに響いた気がして、彼女は振り向いた。
けれど、そちらには何もなく、何かあったような気配すらなく。
焼き団子売りの呼び込みや、通りすがりの人々の喧騒、川のせせらぎが耳をくすぐる。
いつも何かを探して、けれど何も見つけられないのだ。それは子供の時分からの癖で、今も千鶴は何か、を探す癖が抜けない。
今は、父を探してはいるのだけれど、探しているのは、そういった具象ではないような気がしている。
ふ、と一つ吐息を零して、千鶴は降ろしていた腰を据え直した。
待ち合わせの刻限は迫っているが、もう少しだけ刻はある。
乱世と人は言うが、きっと誰もが、誰かの事を慮っているからこそ、世が乱れる。
和平は続かない。それが人の世の習いなのだ、と嘯いたのは誰だったか。
さらさらと流れゆく川水に、取り留めもなく思考を浸していると、衣擦れの音が真横から聞こえ、あわてて千鶴は振り向いた。
「寂しいような処には、鬼が出ると聞きますよ」
どこかふわりと、胸にしみ込む声の主は、薫と名乗っていたか。
「あなたのような優しい人は、気に入られて連れ去られてしまうかもしれません。」
しゃらり、と簪が揺れた。
「どうか、お気を付けてくださいまし」
いつの間にか彼女の冷ややかな手に、千鶴の両手が捕らわれている。
苦労をしているのだろう、骨ばった指にやんわりと包まれ、
------------------------
そしてまた朝の電車の中、我に返る。
携帯でモノ打つと改行が増えますね。なるほどケータイ小説。
心に馴染むいとけない声が微かに響いた気がして、彼女は振り向いた。
けれど、そちらには何もなく、何かあったような気配すらなく。
焼き団子売りの呼び込みや、通りすがりの人々の喧騒、川のせせらぎが耳をくすぐる。
いつも何かを探して、けれど何も見つけられないのだ。それは子供の時分からの癖で、今も千鶴は何か、を探す癖が抜けない。
今は、父を探してはいるのだけれど、探しているのは、そういった具象ではないような気がしている。
ふ、と一つ吐息を零して、千鶴は降ろしていた腰を据え直した。
待ち合わせの刻限は迫っているが、もう少しだけ刻はある。
乱世と人は言うが、きっと誰もが、誰かの事を慮っているからこそ、世が乱れる。
和平は続かない。それが人の世の習いなのだ、と嘯いたのは誰だったか。
さらさらと流れゆく川水に、取り留めもなく思考を浸していると、衣擦れの音が真横から聞こえ、あわてて千鶴は振り向いた。
「寂しいような処には、鬼が出ると聞きますよ」
どこかふわりと、胸にしみ込む声の主は、薫と名乗っていたか。
「あなたのような優しい人は、気に入られて連れ去られてしまうかもしれません。」
しゃらり、と簪が揺れた。
「どうか、お気を付けてくださいまし」
いつの間にか彼女の冷ややかな手に、千鶴の両手が捕らわれている。
苦労をしているのだろう、骨ばった指にやんわりと包まれ、
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そしてまた朝の電車の中、我に返る。
携帯でモノ打つと改行が増えますね。なるほどケータイ小説。
嫌だと、そう訴えるための唇は塞がれている。
やがて、息を継ぐために離れたそれらが唾液で繋がれ、不快感があるものの痺れて口蓋ですら閉じられぬまま、呼吸だけを荒く継ぐ。
差し出された舌が頬を撫で、唾液の跡をつけていく。生ぬるく擦り付けられる唾液はすぐに冷え、ただ濡れた軌跡を残した。
やっと言葉を紡ぐことができる程に呼吸が治まれば、耳元の微かな嘲笑と共に細くしなやかな指が差し入れられ、口の中をなぶりだす。
ぞくりと背を駆け抜けたのは、恐怖か嫌悪か、それとも。
「はん。閨の躾もされてないなんて、雪村の娘とも思えないな。」
「ね、ひゃ…?」
まだ口中でうごめく指のせいで、自分の声が舌っ足らずに酷く甘く響いた。
自分の所業だとも信じられない思いはするが、元凶である舌を触る手も払えず、耳を塞ぎたくても手に力が入らない。為す術も無く兄の手にされるがままで、絶望がひしひしと心に這い寄ってくる。
火照る頬と体中を駆けまわる痺れに流されそうになりながらも、ほんとうに、いったい、自分の身になにが起こっているのかと、回らぬ頭を震わせて再三自分に問うてみたが、やはり状況に追いついていないものか、只々呆とするばかり。
「ふふふ、でも安心するがいいさ。可愛い可愛い妹のためだもの、俺が全部教えてやるよ。男というものを、ね」
――― どうやらそれが、思わぬ所から降ってきた、答え、らしかった。
--------------
ここまで書いて、正気に返りました。
やがて、息を継ぐために離れたそれらが唾液で繋がれ、不快感があるものの痺れて口蓋ですら閉じられぬまま、呼吸だけを荒く継ぐ。
差し出された舌が頬を撫で、唾液の跡をつけていく。生ぬるく擦り付けられる唾液はすぐに冷え、ただ濡れた軌跡を残した。
やっと言葉を紡ぐことができる程に呼吸が治まれば、耳元の微かな嘲笑と共に細くしなやかな指が差し入れられ、口の中をなぶりだす。
ぞくりと背を駆け抜けたのは、恐怖か嫌悪か、それとも。
「はん。閨の躾もされてないなんて、雪村の娘とも思えないな。」
「ね、ひゃ…?」
まだ口中でうごめく指のせいで、自分の声が舌っ足らずに酷く甘く響いた。
自分の所業だとも信じられない思いはするが、元凶である舌を触る手も払えず、耳を塞ぎたくても手に力が入らない。為す術も無く兄の手にされるがままで、絶望がひしひしと心に這い寄ってくる。
火照る頬と体中を駆けまわる痺れに流されそうになりながらも、ほんとうに、いったい、自分の身になにが起こっているのかと、回らぬ頭を震わせて再三自分に問うてみたが、やはり状況に追いついていないものか、只々呆とするばかり。
「ふふふ、でも安心するがいいさ。可愛い可愛い妹のためだもの、俺が全部教えてやるよ。男というものを、ね」
――― どうやらそれが、思わぬ所から降ってきた、答え、らしかった。
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ここまで書いて、正気に返りました。
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