キャラクター理解のための筆遊び、こねこね。
追記に青祓雪燐話を連々。
【8/21】追記を微修正。
追記に青祓雪燐話を連々。
【8/21】追記を微修正。
ふと、眠りから覚醒した。
傍らに立つ者が自身に注ぐ視線に、肌がざわついている。
ゆきお。
誰何せずとも、燐にはそれが誰かなんてすぐに分かる。
時刻は未だ夜の領域なのだろう深い闇が覆う部屋の中、開け放たれた窓から月光が射す。雪男は照らされて逆光になり、その表情は一切が黒く塗り潰されている。
魍魎やら悪魔やらが見えるようになった燐は、もう一つ、視えるものが増えた。靄がかった人の生気のいろ。気配。見えることは特筆することではないと思ったから、まだ誰にも言っていないけれど。
静かに燃える雪男の命が纏う気配は青い。雪男のイメージは、賛美歌の流れる教会の御堂ととてもよくマッチする。神父(オヤジ)のようなカソックを身につければ、きっと違和感を探す方が難しいだろう。
茹だるような夏の熱、月光に照らされた埃がゆっくりと踊り、虫が騒いで、獣の気配が騒ぐようで臭いさえしてくるようなきぶん、暑さに自分の汗がだらだらと流れている。でも、五感からもたらされる情報は、それだけ。
雪男の気配は、ひどく凪いでいる。
ゆきお、とまた呼んでみる。
寝起きに掠れた声はなんだかか細くて嫌になり、咳をして喉の調子を慣らしもう一度その名を読んだ。
ゆきお。
「……なぁに、どうしたの兄さん」
やっと聞けたその声も、気配と同じようにひどく凪いでいた。
雪男からのいらえがあったことに安心して、身じろぐ。額に浮いた汗を乱暴に拭って、その手で自分の顔を隠した。自分からは見えないのに見られていることに、なんとなく違和感を感じた。雪男の顔がみたくて、掌の影から視線を流し、もう一度、弟を呼ぶ。
ゆきお。
「なぁに。兄さん、眠いんでしょ」
うん
「寝てていいよ」
おまえは
「僕は、これから寝るところ」
おそかったんだな
「そうだね。仕事が思ったよりも長引いた」
そっか…たいへんだな
「そうでもないよ」
……ゆきお
呼びかけに対して、今度は返事がなかった。沈黙の中、睡魔がとろりと眠りの元を燐のまぶたへ落としていく。とても耐えられそうになかったから、燐は傍らに立つ片割れに断りを入れた。
ゆきお、おれ、ねむい
「寝てていいよ。」
おまえは
「もう少し、このまま起きてる」
ゆきお、あつい。
「そうだね。今日も熱帯夜だ」
ゆきお。
まぶたが閉じる。閉じてしまう。眠くて、眠くて我慢ができない。汗が耳の横を伝って枕へ落ちていく。耳の穴に入らなくて良かった、あれは、濡れて、ぐちゅっとなって、きもちわるいんだ。
わるい、ねる、おれ
「いいよ。僕が見てるからゆっくり寝なよ。」
うん
「いい夢を。」
うん、ゆきお、うん。でもオレ、オレさ、あのな、
「なに」
いっしょがいい、おまえもねよう。
眠さに負けそうになりながら、なんとか瞼をこじ開ける。雪男が真っ暗の影になったみたいで、なんだか面白くなって、つい笑ってしまう。
影のような雪男に、ピーターパンから逃げ出した影のことを突然思い出して笑ったことを、知ったら雪男は怒るだろうか。幼い頃、ピーターパンの数々の冒険は、いつもりんをわくわくさせた。
獅郎も修道士たちも忙しいふたりきりの夜が度々あった。つまんねーなー、と唇を尖らせるりんに気遣ってか、りんよりも先に文字を覚えたから、本を読むのはゆきおのやくめになった。ゆきお、あれがいい、あれ読んで。思い返せばアレ、で通じるはずもないのに、言語化できないアレをゆきおは必ず察してその一冊を布団へ連れてくる。そうそうそれそれ、なんて笑ってふたりで布団に潜り込み体を寄せ合って、ゆきおは文字を追って、りんは絵を追って、一つの物語を共有した。
あのころは、しあわせな眠りは、りんにもゆきおにもひとしくやってくるものだったのに。
ゆきお、おいで。
手を広げて、雪男に差し出す。いつだって、りんはゆきおに全てを差し出すことができる。こころの全てを見せることは、できなくても。差し出して、受け取ってもらえたことも、ないけれど。差し出された腕を軽くたしなめて、雪男は屈みこみ、その指先で燐の髪を梳いた。
角度が変わり雪男の横顔が月に照らされて、その貌が半分だけ晒される。涙が落ちるような形のホクロが、泣きそうな雪男の顔を飾っている。
いつもホクロメガネ、なんて燐は揶揄するけれど、ホクロとメガネは雪男のしるしで、雪男を思い起こさせるから、ほんとは大好きなのだ。我慢できなくて、口元のホクロに齧り付いたこともある。
雪男のシャツの胸倉をぎゅっと握って引き寄せようとしても、眠いせいで手に力が入らない。ぐ、ぐ、と引っ張ってみても、雪男の体はびくともしない。じっさいはそんなに強く力が入っていなくて、ふらふらと、軽く握られた手が揺れただけ。
そっと被さってきた雪男の手が、その強ばりを優しく包む。
暑くて。汗が流れて、眠くて。力が入らなくて、雪男が泣いてて、なんだかりんまで悲しくなる。悲しさは、伝染するのだ。かなしいからゆきおがないてておれもかなしい、かなしい、かなしい、かなしい、かなしい、かなしい……。
「兄さん」
ぞっとするほど、優しく呼ばれた。背筋に走った痺れをどこにも逃せず、エコーして体の中をめぐるから、燐はひとつため息をついて衝動を逃がした。吐息が、震える。
やさしいゆきお、雪男は誰よりも優しい。だからこそ、いつもは凭れ掛かることをゆるしてくれない。けれどいつでもそっと、燐を慰めてくれるのだ。それが燐との距離だと、信じている。
兄さんはもっと自分を大事にするべきだよ。いつまでも、二人でいられないんだから。そうはっきりと口にした雪男の方こそ、辛そうな顔をしていたことを、今でも覚えている。
いまの雪男は、甘える事を許してくれている。いまは、許されている。しあわせでしあわせで、もっと甘えたいのに、それでももう、眠くて。眠さの雫が燐のまぶたに垂れて、どんどん重くなっていく。
雪男の堅い掌にくるまれたまま、ぷらぷらと雪男のシャツを握っていた燐の手に、野良猫がするように雪男の頬が押し当てられた。ゆっくりと擦りつけられ、撫でさせられている。いつの間にか精悍さを持つようになった頬は肉が薄く、乾いて骨ばっていた。それがいまの雪男なのだと、幼さを捨てた弟を切なく思う。
掌に触れる温かさだけでは物足りなくなって、体温が欲しくて手を突き出し、そのまま人らしく丸い耳を辿って、細く猫毛な髪が流れるうなじを撫でた。僧帽筋に沿って雪男の体をくるみ込めば、しぜんにぴったりとくっつくことができる。抱き込んだ体を包む祓魔師の制服が厚く硬く、窮屈そうなそれをなんとか脱がせようと空いた方の手で拙く引っ張って…けれど、力尽きた。
首筋に当たる弟の唇のやわらかさと、燐の耳に掛かった猫毛がほんの少しくすぐったくて、心地いい。
ゆきおごめん。
と、言えたか言えなかったかもわからない、至近の青い気配と制服越しの微かな温かさに安心して、後頭部に添えられた弟の掌とその優しさ以外ぜんぶわからなくなって、燐は幸せなきもちで意識を手放した。
傍らに立つ者が自身に注ぐ視線に、肌がざわついている。
ゆきお。
誰何せずとも、燐にはそれが誰かなんてすぐに分かる。
時刻は未だ夜の領域なのだろう深い闇が覆う部屋の中、開け放たれた窓から月光が射す。雪男は照らされて逆光になり、その表情は一切が黒く塗り潰されている。
魍魎やら悪魔やらが見えるようになった燐は、もう一つ、視えるものが増えた。靄がかった人の生気のいろ。気配。見えることは特筆することではないと思ったから、まだ誰にも言っていないけれど。
静かに燃える雪男の命が纏う気配は青い。雪男のイメージは、賛美歌の流れる教会の御堂ととてもよくマッチする。神父(オヤジ)のようなカソックを身につければ、きっと違和感を探す方が難しいだろう。
茹だるような夏の熱、月光に照らされた埃がゆっくりと踊り、虫が騒いで、獣の気配が騒ぐようで臭いさえしてくるようなきぶん、暑さに自分の汗がだらだらと流れている。でも、五感からもたらされる情報は、それだけ。
雪男の気配は、ひどく凪いでいる。
ゆきお、とまた呼んでみる。
寝起きに掠れた声はなんだかか細くて嫌になり、咳をして喉の調子を慣らしもう一度その名を読んだ。
ゆきお。
「……なぁに、どうしたの兄さん」
やっと聞けたその声も、気配と同じようにひどく凪いでいた。
雪男からのいらえがあったことに安心して、身じろぐ。額に浮いた汗を乱暴に拭って、その手で自分の顔を隠した。自分からは見えないのに見られていることに、なんとなく違和感を感じた。雪男の顔がみたくて、掌の影から視線を流し、もう一度、弟を呼ぶ。
ゆきお。
「なぁに。兄さん、眠いんでしょ」
うん
「寝てていいよ」
おまえは
「僕は、これから寝るところ」
おそかったんだな
「そうだね。仕事が思ったよりも長引いた」
そっか…たいへんだな
「そうでもないよ」
……ゆきお
呼びかけに対して、今度は返事がなかった。沈黙の中、睡魔がとろりと眠りの元を燐のまぶたへ落としていく。とても耐えられそうになかったから、燐は傍らに立つ片割れに断りを入れた。
ゆきお、おれ、ねむい
「寝てていいよ。」
おまえは
「もう少し、このまま起きてる」
ゆきお、あつい。
「そうだね。今日も熱帯夜だ」
ゆきお。
まぶたが閉じる。閉じてしまう。眠くて、眠くて我慢ができない。汗が耳の横を伝って枕へ落ちていく。耳の穴に入らなくて良かった、あれは、濡れて、ぐちゅっとなって、きもちわるいんだ。
わるい、ねる、おれ
「いいよ。僕が見てるからゆっくり寝なよ。」
うん
「いい夢を。」
うん、ゆきお、うん。でもオレ、オレさ、あのな、
「なに」
いっしょがいい、おまえもねよう。
眠さに負けそうになりながら、なんとか瞼をこじ開ける。雪男が真っ暗の影になったみたいで、なんだか面白くなって、つい笑ってしまう。
影のような雪男に、ピーターパンから逃げ出した影のことを突然思い出して笑ったことを、知ったら雪男は怒るだろうか。幼い頃、ピーターパンの数々の冒険は、いつもりんをわくわくさせた。
獅郎も修道士たちも忙しいふたりきりの夜が度々あった。つまんねーなー、と唇を尖らせるりんに気遣ってか、りんよりも先に文字を覚えたから、本を読むのはゆきおのやくめになった。ゆきお、あれがいい、あれ読んで。思い返せばアレ、で通じるはずもないのに、言語化できないアレをゆきおは必ず察してその一冊を布団へ連れてくる。そうそうそれそれ、なんて笑ってふたりで布団に潜り込み体を寄せ合って、ゆきおは文字を追って、りんは絵を追って、一つの物語を共有した。
あのころは、しあわせな眠りは、りんにもゆきおにもひとしくやってくるものだったのに。
ゆきお、おいで。
手を広げて、雪男に差し出す。いつだって、りんはゆきおに全てを差し出すことができる。こころの全てを見せることは、できなくても。差し出して、受け取ってもらえたことも、ないけれど。差し出された腕を軽くたしなめて、雪男は屈みこみ、その指先で燐の髪を梳いた。
角度が変わり雪男の横顔が月に照らされて、その貌が半分だけ晒される。涙が落ちるような形のホクロが、泣きそうな雪男の顔を飾っている。
いつもホクロメガネ、なんて燐は揶揄するけれど、ホクロとメガネは雪男のしるしで、雪男を思い起こさせるから、ほんとは大好きなのだ。我慢できなくて、口元のホクロに齧り付いたこともある。
雪男のシャツの胸倉をぎゅっと握って引き寄せようとしても、眠いせいで手に力が入らない。ぐ、ぐ、と引っ張ってみても、雪男の体はびくともしない。じっさいはそんなに強く力が入っていなくて、ふらふらと、軽く握られた手が揺れただけ。
そっと被さってきた雪男の手が、その強ばりを優しく包む。
暑くて。汗が流れて、眠くて。力が入らなくて、雪男が泣いてて、なんだかりんまで悲しくなる。悲しさは、伝染するのだ。かなしいからゆきおがないてておれもかなしい、かなしい、かなしい、かなしい、かなしい、かなしい……。
「兄さん」
ぞっとするほど、優しく呼ばれた。背筋に走った痺れをどこにも逃せず、エコーして体の中をめぐるから、燐はひとつため息をついて衝動を逃がした。吐息が、震える。
やさしいゆきお、雪男は誰よりも優しい。だからこそ、いつもは凭れ掛かることをゆるしてくれない。けれどいつでもそっと、燐を慰めてくれるのだ。それが燐との距離だと、信じている。
兄さんはもっと自分を大事にするべきだよ。いつまでも、二人でいられないんだから。そうはっきりと口にした雪男の方こそ、辛そうな顔をしていたことを、今でも覚えている。
いまの雪男は、甘える事を許してくれている。いまは、許されている。しあわせでしあわせで、もっと甘えたいのに、それでももう、眠くて。眠さの雫が燐のまぶたに垂れて、どんどん重くなっていく。
雪男の堅い掌にくるまれたまま、ぷらぷらと雪男のシャツを握っていた燐の手に、野良猫がするように雪男の頬が押し当てられた。ゆっくりと擦りつけられ、撫でさせられている。いつの間にか精悍さを持つようになった頬は肉が薄く、乾いて骨ばっていた。それがいまの雪男なのだと、幼さを捨てた弟を切なく思う。
掌に触れる温かさだけでは物足りなくなって、体温が欲しくて手を突き出し、そのまま人らしく丸い耳を辿って、細く猫毛な髪が流れるうなじを撫でた。僧帽筋に沿って雪男の体をくるみ込めば、しぜんにぴったりとくっつくことができる。抱き込んだ体を包む祓魔師の制服が厚く硬く、窮屈そうなそれをなんとか脱がせようと空いた方の手で拙く引っ張って…けれど、力尽きた。
首筋に当たる弟の唇のやわらかさと、燐の耳に掛かった猫毛がほんの少しくすぐったくて、心地いい。
ゆきおごめん。
と、言えたか言えなかったかもわからない、至近の青い気配と制服越しの微かな温かさに安心して、後頭部に添えられた弟の掌とその優しさ以外ぜんぶわからなくなって、燐は幸せなきもちで意識を手放した。
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おかえりなさい
そんなことおっしゃりつつ、佐之さんをちょうだいvと手を差し出す姉様、好きですよw
揺れるしっぽは猫の尻尾だといいな、姉様ならじゃれてくれそうなので。
揺れるしっぽは猫の尻尾だといいな、姉様ならじゃれてくれそうなので。
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